「べっぴんさん」に登場する子供服メーカーのキアリス。そのモデルとなったファミリアの歴史を建物で辿る

NHKの朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」 戦後、進取の気性に富む女性たちが興した子供服メーカー、キアリスが成長する軌跡を描きます。

モデルとなった企業は神戸に本社を構えるファミリア。 ここではビルサイトらしく同社の歴史を建物で紹介してみようと思います。 ※ちなみにキアリスの社名は登場人物4人(田坂君枝、小野明美、多田良子、坂東すみれ)の名前の頭文字から名付けられています。

芦屋川の風景。周辺には驚くほど大きな邸宅が並びます

べっぴんさんの主人公は芳根京子演じる坂東すみれ。 ファミリアの創業者のひとりである坂野惇子をモデルに描かれました。 坂野惇子は芦屋生まれの生粋のお嬢様。父親は繊維会社の名門であるレナウンの創業者、祖父は貴族院議員でした。 芦屋の本宅のほかに住吉に別宅、軽井沢に別荘をもっていたそうです。

ハウザー堺筋本町駅前ビルは1935年の完成。施主はおそらく佐々木家(坂野の実家)です

レナウンの創業時の社名は佐々木営業部(ドラマでは坂東営業部)。繊維問屋が集積する大阪・船場に本社を構えていました。

本町通と堺筋の交差点北側にハウザー堺筋本町駅前ビルというオフィスビルがあります。 何の変哲もないように見えますが実は戦前の建築で当時の佐々木営業部はこのビルに本社を構えていた…はずです! (何かの資料で白黒写真を見た記憶が。以前のビル名称は佐々木ビルですしおそらく間違いないかと。)

現在の甲南女子中学校・高等学校は芦屋に近い高台に立地しています

坂野惇子はお嬢様学校として知られる甲南高等女学校(現・甲南女子中学校・高等学校)にすすみます。 ここでフランス人教師に人形作りや刺繍を学んだそうです。当時の上流階級では裁縫が習い事の定番だったとか。

ファミリアの創業に携わったうちの2人とはこの女学校で出会っています。 2人はそれぞれ田村駒、バンドー化学の創業者の娘さん。またしても超お嬢様です。

坂野通夫が勤務した大阪商船神戸支店(現・商戦三井ビルディング)。1922年の竣工で海岸通に立っています。ちなみに当時の大阪商船の本社は大阪中之島のダイビル本館にありました。

坂野惇子が結婚相手に選んだのは山口銀行(←三和銀行の前身のひとつ)総理事の息子である坂野通夫。京都帝国大学(現在の京都大学)を卒業後、 大阪商船(現在の商船三井)に勤めていました。レナウンを経てのちにファミリア社長となります。

創業地に立つ神戸Mediterrasse(現在は三宮ゼロゲート(仮称))。トアロード側から見た南欧風の外観が特徴的。正面であるセンター街側はガラス張りです

終戦から日本が立ち直りつつあった1948年、坂野惇子らは素人ながら質の高いベビー服を制作。 神戸元町の「モトヤ靴店」(ドラマではあさや靴店)の空いているスペースに2列の陳列ケースをおいて「ベビーショップ モトヤ」(ドラマではベビーショップ あさや)をスタートさせます。

初日こそ驚異的な売上でしたが2日目には売上が1/100に。このあたりドラマでは面白い回になるでしょうね。 それまで日本になかった丁寧なつくりのベビー服は神戸に住む欧米人や富裕層などの間で話題になりました。

間借りは早々に解消し、隣に移って独立店に。間もなくさらに隣に移転して1950年(昭和25年)にファミリアとして創業します。 それらが所在したのが神戸三宮センター街の一角。センター街とトアロードとの交差点付近です。

壁面に描かれた子供服のお店

その後、まとめて再開発されましたが現在の1代前の建物には 「ファミリア」だけでなく「モトヤ靴店」あらため「シューズショップもとや」も同居していました。

しかし阪神大震災で被災。ファッションビル「神戸Mediterrasse」に建て替えられました。 空きスペースを使って「べっぴんさん展」が開かれています。

阪急うめだ店。関西エリアで最高の売上高を誇る格式ある百貨店です。建て替えられましたがファミリアは現在も大きな店舗を構えています

ファミリアの事業拡大は百貨店への進出なしには語れません。評判を聞きつけ最初に出店を打診してきた阪急百貨店(ドラマでは大急百貨店)、 そして阪急百貨店の社長、清水雅個人とは特に強い関係を築きます。阪急梅田店での成功につづいて、東京に進出した際に選んだのも数寄屋橋阪急でした。

数寄屋橋阪急(のちのモザイク銀座阪急)が入っていた銀座TSビル。ファミリア入居時のビル名称はマツダビルで米軍が一部を接収している状態でした。 2012年の解体後、跡地には東急プラザ銀座が建設されました。

高島屋とも繋がりが強いです。ファミリアは美智子皇后の出産を機に皇室御用達になりますがその際は高島屋が仲立ちをつとめました。 確か創業者の1人と高島屋の社長の息子さんが結婚しているはずです。

神戸元町本店。同社のマスコットが迎えます。

ファミリアは旗艦店舗を神戸元町と東京銀座に構えています。 神戸元町本店は神戸元町商店街にあり3フロアを売り場としています。

銀座本店は「子供百貨店」のコンセプトを打ち出し1976年に大々的にオープンしました。 当初は銀座6丁目にありましたが、現在は銀座8丁目に移っています

現在の三菱UFJ信託銀行神戸ビル(1999年に建て替え)。左は大丸神戸店です

本社オフィスは元町駅前を経て1971年、三菱UFJ信託銀行神戸ビルに移転。以後、20年以上にわたりオフィスを構えます。

旧・三菱銀行神戸支店に隣り合う本社ビル。1984年の完成で延べ床面積は約3300m2。移転前は西館と呼ばれていました

1994年には旧・三菱銀行神戸支店の敷地に立てていた6階建ての自社ビルへと移ります。 それまでは主に物流拠点として使っていたビルですが移転にあわせて改装しました。

旧・三菱銀行神戸支店。神戸の遺産がまたひとつ消えます。もったいない~。左奥にみえるのが旧本社ビルです。

本社敷地にはルネサンス様式の旧・三菱銀行神戸支店がありました。 曽禰達蔵の設計で明治33年の完成です。 神戸における本格的洋風建築の先駆け的存在でした。 阪神大震災の翌年に改装しファミリアホールに名前を変えました。

2015年、ファミリアは敷地を売却。ファミリアホールと旧本社の2棟は解体され跡地にはタワーマンションが建設されます。

2016年時点で本社を構えるIPSX EAST(神戸市中央区磯上通)です。三宮駅から徒歩圏内に立地するマンションとオフィスの複合ビルです。 3~4階がファミリアのオフィスとして活用されています。



私のNHK連続テレビ小説はカーネーションで止まっています。 毎朝の15分が映画2時間分に匹敵するほどの素晴らしいドラマでした。

いまだロスが続いている状態なので朝ドラ視聴は何となく避けていましたが今回の「べっぴんさん」は同じアパレル関連の話ですし何だか面白そうな予感。 大器を感じさせる芳根京子さんの演技も気になるので久しぶりに見てみようかと思ってます。